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東京高等裁判所 平成5年(ネ)1706号 判決

静岡県清水市八坂南町一番三四号

控訴人

現代建設株式会社

右代表者代表取締役

上野富吉

右訴訟代理人弁護士

石川幸吉

右輔佐人弁理士

佐々木功

静岡県静岡市追手町五番一号

被控訴人

静岡市

右代表者市長

小嶋善吉

右訴訟代理人弁護士

向坂達也

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、別紙第二目録記載の工法からなる別紙第一目録記載の一般廃棄物最終処分場を使用してはならない。

3  被控訴人は、右一般廃棄物最終処分場を廃棄せよ。

4  訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  控訴人は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。

(一) 発明の名称 一般及び産業廃棄物の埋立処分地造成工法

(二) 出願日 昭和五二年七月一日

(三) 出願公告日 昭和六〇年五月二二日

(四) 登録日 平成二年二月一五日

(五) 登録番号 特許第一五四四九八七号

2  本件発明の願書に添付した明細書(平成元年三月二八日付け手続補正書によって補正した後のもの。以下「本件明細書」という。)に記載された特許請求の範囲は、次のとおりである。

「埋立処分地造成に際し廃棄物の流出を防止するための側面擁壁1、水勾配を有する底面2及び底面勾配下辺に沿って集水渠3を備えた正方形、矩形又はこれに類似の形の埋立用ピットを掘削し、ピット及び集水渠内面をすべて塩化ビニール又は酢酸ビニールの耐久性且つ弾力性のある止水シート4でライニングして遮水工事を行ない、集水渠中央部にはコンクリート製又は塩化ビニール製の多孔管5を設置してなる一般及び産業廃棄物の埋立処分地造成工法において、上記多孔管外部には砂利砕石類7を内部には小砂利類6を充填し、多孔管末端は金網にて小砂利止めを行なうとともに上部に排気扇8を備え、底部に多孔管より排水する排水を貯留せしめる排水貯留枡9を有する堅型排気管10を設けて該多孔管と接続させ、ピット内排水を集水渠及び多孔管外部の砂利砕石類7と多孔管内の小砂利類6に付着した微生物及び細菌による浄化作用にて浄化しつつ上記排水貯留枡9中に流入させ、排水貯留枡9中にはその水位に応じて作動するフロートスイッチ付水中ポンプ11を設置し、上記排水及び有機物の分解により生ずるガス類についてそれぞれ水中ポンプ11により排水を排水管を通じて地上に放出し、また排気扇8によりガス類を排気管10を通じて地上に放出し、排水が排水基準値以上のときは地上の排水処理設備13により排水基準値以下に処理後放流することを特徴とする一般及び産業廃棄物の埋立処分地造成工法。」

3(一)  本件発明は、次の構成要件からなる一般及び産業廃棄物の埋立処分地造成工法である。

A 埋立処分地造成に際し廃棄物の流出を防止するための側面擁壁1、水勾配を有する底面2及び底面勾配下辺に沿って集水渠3を備えた正方形、矩形又はこれに類似の形の埋立用ピットを掘削すること

B ピット及び集水渠内面をすべて塩化ビニール又は酢酸ビニールの耐久性かつ弾力性のある止水シート4でライニングして遮水工事を行うこと

C 集水渠中央部にはコンクリート製又は塩化ビニール製の多孔管5を設置すること

D 右多孔管外部には砂利砕石類7を、内部には小砂利類6を充填すること

E 多孔管末端は金網にて小砂利止めを行うこと

F 上部に排気扇8を備え、底部に多孔管より排水する排水を貯留せしめる排水貯留枡9を有する堅型排気管10を設けて右多孔管と接続させること

G ピット内排水を、集水渠及び多孔管外部の砂利砕石類7と多孔管内の小砂利類6に付着した微生物及び細菌による浄化作用にて浄化しつつ、右排水貯留枡9中に流入させること

H 排水貯留枡9中にはその水位に応じて作動するフロートスイッチ付水中ポンプ11を設置し、右排水及び有機物の分解により生ずるガス類についてそれぞれ水中ポンプ11により排水を排水管を通じて地上に放出し、また排気扇8によりガス類を排気管10を通じて地上に排出すること

I 排水が排水基準値以上のときは、地上の排水処理設備13により排水基準値以下に処理後放流すること

(二)  本件発明の特徴は、従来(本件発明の特許出願前)行われてきた好気性埋立がポンプピットのブロワーと空気送入管により埋立構造部に給気して好気性を保つようにしたのに対して、ポンプピットのブロワーにより埋立構造部発生ガスを吸引排気して埋立構造部を負圧にし、浸出液集排水管の末端有孔部から外気を吸引して好気性を保つようにしたことにより、空気送入管の配管を省略することができると共に、有毒な埋立構造部発生ガスを一箇所に収拾して排気できるようにした点にある。

4  被控訴人は、別紙第二目録記載の工法(以下「被控訴人工法」という。)からなる別紙第一目録記載の一般廃棄物最終処分場(以下「被控訴人処分場」という。)を所有し、業として使用している。

5  被控訴人工法は、次の構成からなる一般廃棄物の埋立処分地造成工法である。

a 埋立地造成に際し廃棄物の流出を防止するための埋立ピット側面〈1〉、水勾配を有する埋立ピット底面〈2〉及び底面勾配下辺に沿って浸出液集水管下部の渠溝〈3〉を備え、土堰堤〈14〉で適宜大きさに区画した多角方形の埋立ピットを掘削している。

b 埋立ピットの底部は合成ゴムのしゃ水シート〈4〉、側部は吹付ゴムシート〈4〉で、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉の内面は吹付ゴムシート〈4〉と保護砂でライニングして遮水工事を行っている。

c 浸出液集水管下部の渠溝〈3〉の中央部には、骨材〈6〉となる小砂利類の粒度を限定して特殊なセメントペーストによって結合し、連続性空隙を形成したコンクリートによるコンクリート透水管〈5〉を砕石〈7〉によって巻立てた浸出液集排水管を設置している。

d 浸出液集排水管(コンクリート透水管〈5〉)外部は砕石〈7〉によって巻立てられ、同透水管〈5〉内部は骨材〈6〉となる小砂利類の粒度を限定して特殊なセメントペーストによって結合し、連続性空隙を形成したコンクリートによって構成されている。

e 浸出液処理設備〈13〉に浸出液が流入する浸出液集排水管の末端には「スクリーン」が設置されている。

f 浸出液はコンクリート透水管〈5〉が底部に開口する浸出液貯留槽〈9〉を有する原水ピット〈10〉に廃棄物の分解発生ガスとともに流入し、原水ピット〈10〉の上部は浸出液処理設備ブロア室の貯留水送水管〈8〉に連絡する。

g コンクリート透水管〈5〉に集排水された廃棄物浸出液は、浸水液集水管下部の渠溝〈3〉に充填され透水管〈5〉を巻立てている砕石〈7〉と透水管〈5〉を構成する小砂利骨材〈6〉に付着した微生物及び細菌による浄化作用により浄化されつつ浸出液貯留槽〈9〉に流入される。

h 浸出液貯留槽〈9〉には水中ポンプ〈11〉が設置され、貯留された浸出液を浸出液処理設備〈13〉に汲み上げ排水し、分解発生ガスは浸出液処理設備ブロア室の貯留水送水管〈8〉によって原水ピット〈10〉を通じて強制的に排気される。

i 浸出液貯留槽〈9〉には水中ポンプ〈11〉が設置され、貯留された浸出液を浸出液処理設備〈13〉に汲み上げ、同処理設備〈13〉において排水基準値以下に処理して放流する。

6  本件発明と被控訴人工法は、一般廃棄物の埋立処分地造成工法に係るものである点で一致しており、以下述べるとおり、被控訴人工法の具体構成は、本件発明の構成要件をすべて充足している。

(一) 被控訴人工法における埋立ピット側面〈1〉、埋立ピット底面〈2〉、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉は、本件発明における側面擁壁1、水勾配を有する底面2、集水渠3にそれぞれに相当するから、被控訴人工法の構成aは本件発明の構成要件Aを充足している。

(二) 被控訴人工法の構成bは本件発明の構成要件Bを充足している。

(三) 被控訴人工法における連続性空隙を形成したコンクリートによるコンクリート透水管〈5〉は、本件発明におけるコンクリート製又は塩化ビニール製の多孔管5に相当するから、被控訴人工法の構成cは本件発明の構成要件Cを充足している。

(四) 被控訴人工法の構成dは本件発明の構成要件Dを充足している。

ただ、本件発明においては、多孔管5の内部に小砂利類6を充填する構成となっているのに対し、被控訴人工法におけるコンクリート透水管〈5〉はそのような構成になっていない。

しかし、多孔管も透水管も、気体や液体の通過を目的とするものであって、砂利類の有無は通過の時間のみの差において現れるだけであるから、右の差は取るに足らないものである。砂利類を使用しなくても、不完全ながらも本件発明を利用できるのである。その点で、被控訴人工法におけるコンクリート透水管〈5〉は本件発明の不完全利用であって、本件発明の保護範囲を侵害するものである。また、コンクリート透水管〈5〉の材料であるポラコンは、多孔管の内部に砂利を入れて構成する透水管に代わるものとして開発されたものであり、本件発明における小砂利類を充填した多孔管と同効であって、置換可能な均等物である。

(五) 被控訴人工法の構成eは本件発明の構成要件Eを充足している。

被控訴人工法においては、浸出液集排水管の末端に金網が設置されていないが、コンクリート透水管〈5〉に砂利類を充填していないことから当然のことであり、前記のとおり多孔管や透水管の内部に砂利を入れることの有無は、特に大きな差をもたらすものではない以上、この末端部の相違も微差である。

(六) 被控訴人工法の構成fは本件発明の構成要件Fを充足している。

被控訴人工法においては、排気扇は使用されていないが、貯留水送水管〈8〉は排気機能をも有するもので、ピット〈10〉と協働して本件発明における排気扇8、堅型排気管10と同一の作用効果を有するものである。

(七) 被控訴人工法の構成gは本件発明の構成要件Gを充足している。

(八) 被控訴人工法の構成hは本件発明の構成要件Hを充足している。

被控訴人工法における発生ガスの自然放散は、発生ガスを完全に除去できるものではなく、最終的には浸出液処理設備ブロア室において処理されるものであるから、本件発明におけるものと均等の方法というべきである。

(九) 被控訴人工法の構成iは本件発明の構成要件Iを充足している。

したがって、被控訴人方法は本件発明の技術的範囲に属するものというべきである。

7  よって、控訴人は被控訴人に対し、本件特許権に基づき、被控訴人処分場の使用差止め及び廃棄を求める。

三  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3(一)は認める。同3(二)は争う。

4  同4のうち、被控訴人が被控訴人処分場を所有し、業として使用していることは認めるが、その工法が別紙第二目録記載のとおりであることは否認する(詳細は後記5項記載のとおり)。

5  同5のうち、被控訴人工法が一般廃棄物の埋立処分地造成工法であることは認める。

同5のaにつき、〈3〉が浸出液集水管下部の渠溝であること、埋立ピットが適宜大きさに区画し、多角方形に掘削されたものであることは否認し、その余は認める。

同bにつき、「吹付ゴムシート〈4〉で、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉の内面は吹付ゴムシート〈4〉と保護砂でライニングして」との部分は否認し、その余は認める。

同cにつき、〈3〉が浸出液集水管下部の渠溝であること、小砂利類が骨材〈6〉となることは否認し、その余は認める。

透水管〈5〉に用いられるポラコンは小砂利類とは全く異質のものである。

同dにつき、小砂利類が骨材〈6〉となることは否認し、その余は認める。但し、透水管〈5〉の内部は空洞である。

同eは否認する。

スクリーンは透水管〈5〉の末端にはなく、埋立地外にある浸出液処理設備における沈砂池・調整槽の直前に設けられている。また、スクリーンの目的は、原水に含まれたゴミ等を取り除くためのものである。

同fは否認する。

廃棄物の分解ガスが浸出液集水塔内部の貯留槽に流入することは基本的にはないものである。

同gは否認する。

浸出液(排水)が透水管〈5〉を通過して、空洞の管の中に流入するまでの間に、浄化効果が仮にあるとしても微々たるものである。

同hにつき、浸出液貯留槽〈9〉に水中ポンプ〈11〉が設置されていることは認めるが、その余は否認する。

貯留水送水管〈8〉に排気機能はない。

同iにつき、「貯留された浸出液を浸出液処理設備〈13〉に汲み上げ」の部分は否認し、その余は認める。

6  同6のうち、本件発明と被控訴人工法が、一般廃棄物の埋立処分地造成工法に係るものである点で一致することは認めるが、その余はすべて否認する。

被控訴人処分場においては、廃棄物から浸出した浸出液を、透水管ポラコンパイプで迅速に集水し、この集められた浸出液(排水)を埋立地外の浸出液処理設備に送水して、浸出液(排水)の浄化は専ら、この浸出液処理設備において、砂礫を除く原水調整・微生物による生物処理・凝集剤注入による凝集沈殿・砂礫過槽及び活性炭吸着等による高度処理・塩素滅菌の消毒等の各処理段階で集中して浄化処理を行うものである。

また、同処分場においては、分解発生ガスは埋立ピット側面に設置された円筒形蛇籠、あるいは保有水集排水施設に接続するガス抜き管により自然に大気放散される。

控訴人は、被控訴人工法における透水管は本件発明における多孔管に小砂利類を充填したものの不完全利用であり、置換可能な均等物である旨主張する。

しかし、本件発明の出願経過、明細書の補正経緯・内容及び審決の内容等によれば、本件発明における「多孔管内部には小砂利類を充填し」という要件は、本件発明が特許すべきものとされた本質的な構成要件というべきところ、「多孔管の内部に小砂利類を充填したもの」の本来的機能は、管の中に流入した浸出液が、小砂利類で充填された管の中を、連結された管の長さに添って、横に長い距離にわたって徐々に流れていく間に、小砂利類に付着した微生物や細菌によって濾過・浄化されるという微生物及び細菌による浄化作用効果である。これに対して、被控訴人処分場における透水管の機能は、集水効果と目詰まり防止効果であって、両者は本質的にその作用効果を異にする異質なものであるから、控訴人の右主張は理由がないものというべきである。

第三  証拠関係

原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求の原因1(控訴人が本件特許権の特許権者であること)、2(本件発明の特許請求の範囲の記載)、3(一)(本件発明の構成要件)、及び被控訴人が別紙第一目録記載の被控訴人処分場を所有し、業として使用していることは、当事者間に争いがない。

二  本件発明と被控訴人工法が一般廃棄物の埋立処分地造成工法に係るものである点で一致することは当事者間に争いがないところ、被控訴人処分場の造成工法の具体的構成が控訴人の主張する工法(別紙第二目録記載の被控訴人工法)のとおりであることについては争いのある部分も存するが、この点は措き、被控訴人工法の構成d、e、fが本件発明の構成要件D、E、Fをそれぞれ充足しているか否かについて検討する。

1  本件発明の構成要件Dは、「右多孔管外部には砂利砕石類7を、内部には小砂利類6を充填すること」というものであるのに対し、被控訴人工法の構成dは、「浸出液集排水管(コンクリート透水管〈5〉)外部は砕石〈7〉によって巻立てられ、同透水管〈5〉内部は骨材〈6〉となる小砂利類の粒度を限定して特殊なセメントペーストによって結合し、連続性空隙を形成したコンクリートによって構成されている。」というものである。なお、構成dにおいては透水管〈5〉内部という表現が用いられているが、ここでいう「内部」というのは透水管自体の構成のことを意味するものとして用いられているものと認められるし、成立に争いのない甲第三号証の二、乙第二号証の三、原審証人佐々隆史の証言及び同証言により被控訴人処分場における透水管設置状況を撮影した写真であることが認められる乙第三号証によっても、コンクリート透水管〈5〉の内部に小砂利類が充填されていないことは明らかである。

右のとおり、前者においては多孔管の内部に小砂利類が充填されているのに対し、後者のコンクリート透水管の内部には小砂利類が充填されておらず、空洞となっている点において相違しているから、構成dが構成要件Dを充足していないことは明らかである。

次に、本件発明の構成要件Eは、「多孔管末端は金網にて小砂利止めを行うこと」というものであるのに対し、被控訴人工法の構成eは、「浸出液処理設備〈13〉に浸出液が流入する浸出液集排水管の末端には『スクリーン』が設置されている。」というものであって、後者のものは浸出液集排水管の末端に金網が設けられていない点で前者と相違しているから、構成eは構成要件Eを充足していない。

更に、本件発明の構成要件Fは、「上部に排気扇8を備え、底部に多孔管より排水する排水を貯留せしめる排水貯留枡9を有する堅型排気管10を設けて右多孔管と接続させること」というものであるのに対し、被控訴人工法の構成fは、「浸出液はコンクリート透水管〈5〉が底部に開口する浸出液貯留槽〈9〉を有する原水ピット〈10〉に廃棄物の分解発生ガスとともに流入し、原水ピット〈10〉の上部は浸出液処理設備ブロア室の貯留水送水管〈8〉に連絡する。」というものであって、前者においては堅型排気管10の上部に排気扇が備えられているのに対し、後者においては排気扇が用いられていない点で少なくとも相違しているから、構成fは構成要件Fを充足していない。

2  控訴人は、本件発明は多孔管5の内部に小砂利類6を充填する構成になっているのに対し、被控訴人工法におけるコンクリート透水管〈5〉はそのような構成になっておらず、内部が空洞である点について、請求の原因6(四)掲記の理由により、コンクリート透水管〈5〉は本件発明の不完全利用である旨、また、本件発明における多孔管と置換可能な均等物である旨主張し、被控訴人工法においては浸出液集排水管の末端に金網が設置されていない点について、コンクリート透水管〈5〉に砂利類を充填していないことの当然の結果であって、その相違は微差である旨主張する。更に、被控訴人工法においては排気扇が使用されていない点について、貯留水送水管〈8〉は排気機能を有するもので、ピット〈10〉と協働して、本件発明における排気扇8、堅型排気管10と同一の作用効果を有するものである旨主張するので、これらの点について検討する。

(一)  いずれも成立に争いのない甲第四ないし第六号証、乙第五ないし第七号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) 本件発明は、昭和六〇年五月二二日に出願公告されたが、特許異議の申立てがあり、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができないとの理由により拒絶査定がなされた。

控訴人は、審判を請求するとともに、平成元年三月二八日付け手続補正書を提出して明細書全文を補正し、その旨訂正公報により公告された。

(2) 右補正の主な内容は次のとおりである。

〈1〉 特許請求の範囲について

イ 細菌等による浄化作用を期待する技術的手段について、「集水渠及び多孔管内の砂利砕石類」と表現されていたものを「集水渠及び多孔管外部の砂利砕石類と多孔管内の小砂利類」に訂正した。

ロ 貯留枡上部の「換気扇」を「排気扇」と訂正した上、「排気扇によりガス類を排気管を通じて地上に放出し」を付加した。

〈2〉 発明の詳細な説明について

イ 従来の工法と比較し、「本発明はこのような一般及び産業廃棄物の埋立処分地造成工法において埋立用ピットの内面に止水シートを用いて止水を図り、例埋立用ピットの底面に集水渠を設けて集水せしめるようにした廃棄物を用いた埋立処分地の造成工法を更に改良し、好適に集水が図られるとともに埋立ピット内に廃棄された廃棄物の埋立処分地中において微生物、細菌類を集水渠内の砂利砕石類の表面に増殖付着せしめて排水中の有機質の分解を効果的にならしめるとともに、排水と排気を良好ならしめる新規な埋立処分地造成工法を提供したものである。」と説明して、集水渠内の砂利砕石類の表面に微生物、細菌類を増殖付着させ、その利用により排水中の有機物の分解を効果的にする点、及び排水と排気を良好にする点に本件発明の新規性があることを明らかにした。

ロ 多孔管内外の砂利砕石類及び金網の効果について、「多孔管5外の砂利砕石類を透過する間においてもその集水の濾過作用が図られながら多孔管5内に導かれ、そして、その後、多孔管5内の径の小さい小砂利類6によって更に浄化作用がなされて貯留枡9に流水されるようになっているものである。この集水渠3内に集水された排水は、この集水渠3に集水されている間、多孔管5の外の砂利砕石類7と、多孔管5内の小砂利類6と付着している微生物及び細菌によって浄化作用がなされて浄化されつつ貯留枡9に流下されることとなり、その際、多孔管5外では比較的径の大きい砂利砕石類7であるため集水渠3内での微生物および細菌の繁殖を助長せしめるとともに多孔管5内では径の小さい小砂利類6を用いて更に、その微生物・細菌の繁殖とともに排水の浄化と濾過作用をその微生物及び細菌の浄化作用を介して浄化しつつその多孔管5の内外で二重になさしめて貯留枡9に貯留せしめるようにしたものである。・・・多孔管5の外部には径の大きい砂利砕石類7を充填したので多孔管5に設けられている多孔が目詰りするのを防ぐ効果があり、しかも多孔管末端に備えられた金網により多孔管5内の小砂利類6がその集水と共に貯留枡9に流下して貯留枡9にその小砂利類6が流下されるのが防がれている。」と説明した。

ハ 堅型貯留枡上部の排気扇の効果について、「集水渠3内、及び、多孔管5内を排気扇8によって負圧乃至低圧にしてピット内での下向気流を生ぜしめてピット内を、より好気性雰囲気に保つと、集水渠3内の砂利砕石類7、及び、多孔管内部の小砂利類6の表面に微生物、単細胞動物、細菌等が増殖付着して排水中の有機物はスムースに分解される効果がある。」、「埋立ピット内に設けた貯留枡に下端を接続した排気管の上部に排気扇を設けたことにより該排気扇による排気が上記貯留枡を介してピット内を負圧にし、ピット内廃棄物の発生ガスや雨水類をピット下部に沈降させて分解を促進させる効果があり、分解後のガス類を強制的に外気に排出させる効果がある。」と説明した。

(3) 特許庁は、平成元年一〇月一七日、前記拒絶査定を取消し、本願の発明は特許すべきものとするとの審決をしたが、その理由の要旨は、本件発明の特許出願前に国内で頒布された刊行物には、本件発明の構成要件の一部である「多孔管外部には砂利砕石類を、内部には小砂利類を充填し、多孔管末端には金網にて小砂利止めを行うとともに上部には排気扇を備え、底部に多孔管より排水する排水を貯留せしめる排水貯留枡を有する堅型排気管を設けて多孔管と接続させ」という点について記載されておらず、本件発明は右の点を構成要件とすることにより、前記(2)〈2〉ロ、ハの効果を奏するものであるところ、これらの効果は前記刊行物の記載からは予測できないものであるから、本件発明は前記刊行物の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないとしたものである。

(二)  右に認定した本件発明の出願の経過、明細書の補正経緯・内容、特に発明の詳細な説明における効果の記載及び審決の内容によれば、本件発明における「多孔管外部には砂利砕石類を、内部には小砂利類を充填し、多孔管末端には金網にて小砂利止めを行うとともに、上部には排気扇を備え、底部に多孔管より排水する排水を貯留せしめる排水貯留枡を有する堅型排気管を設けて多孔管と接続する」という構成(構成要件D、E、F)は新規の構成であり、かつ、この構成により前記(一)(2)〈2〉ロ、ハの効果を奏するものであって、これらの点に本件発明の新規性があり、その故に本件発明は特許権を付与されたものと認められ、右構成が作用効果の面からみても重要性の高いものであることは明らかである。

(三)  ところで、いわゆる均等物というのは、特許発明の構成要件の一部を他の方法や物で置換しても当該特許発明の目的を到達することができ(置換可能性)、かつ当業者であるならば当該置換を容易になし得る程度のものである(置換容易性)という要件を満たす場合に、当該特許発明の技術的範囲に属するものとして扱われるものであり、また、いわゆる不完全利用というのは、特許発明を構成する要件のうち作用効果の点からみて比較的重要性の低い事項を省略することによって、当該発明の所期する作用効果は多少の低下をみるが、当該発明の技術的範囲に属するものであって、ただ特許権者の追求を免れるために、右のような省略を実施している侵害行為の態様をいうものと解される。

本件についてみるに、仮に均等論あるいは不完全利用論が採用できるものであるとしても、本件発明において、多孔管内部に小砂利類を充填した構成は、多孔管外部の砂利砕石類と相まって、集水渠内での微生物及び細菌の利用による浄化作用を奏するのに重要な技術事項であり、本件発明を特許すべきものとした新規的な要件の一つであること、被控訴人工法におけるコンクリート透水管の内部には小砂利類が充填されておらず、小砂利類のもたらす右のような作用を期待できないこと、右コンクリート透水管は、骨材粒度を限定して特殊なセメントペーストによって結合し、連続性空隙を形成したコンクリートである「ポラコン」からなるものであるが(このことは成立に争いのない乙第四号証及び原審証人佐々隆史の証言により認める。)、右透水管が本件発明における小砂利類を充填した多孔管と同効であって、右透水管を用いることにより微生物及び細菌による浄化効果が得られるものであることを認めるに足りる証拠はないことに照らすと、その内部に小砂利類を充填していない被控訴人工法のコンクリート透水管が、本件発明の小砂利類を充填した多孔管と置換可能な均等物ではなく、また不完全利用にも当たらないことは明らかである。

なお、コンクリート透水管〈5〉の内部には小砂利類が充填されていないのであるから、その末端に金網を設置する必要のないことは当然のことであるが、金網の設置も小砂利類の充填と一体のものとして考えれば、金網が設置されていないことが、控訴人のいうように微差ということはできない。

また、本件発明において堅型排気管10の上部に排気扇8を設けた構成は新規のものであり、前記のとおりの効果を奏するものであるが、被控訴人工法における貯留水送水管〈8〉が排気機能を有し、ピット〈10〉と協働して本件発明における排気扇、堅型排気管と同一の作用効果を有することを認めるに足りる証拠はない。

右のとおりであって、控訴人の主張は理由がない。

三  以上のとおりであるから、被控訴人工法におけるその余の構成が本件発明の構成要件を充足するか否かについて検討するまでもなく、被控訴人工法は本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。

よって、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法三八四条により本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濱崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙

第一目録

一 名称 静岡市沼上最終処分場

二 所在地 静岡市北沼上三八七の一

三 埋立地面積 三万六〇〇〇平方メートル

別紙

第二目録

一 静岡市沼上最終処分場造成工法

二 図面の説明

図は静岡市沼上最終処分場を示すものであって、第1図は埋立処分場部分の平面図、第2図は全体の配置状態を示す模式的斜視図、第3図は埋立処分場の模式的縦断面図、第4図は標準横断面図、第5図は幹線の浸出液集水管敷設部分の横断面図である。

三 符号の説明

埋立ピット側面〈1〉、埋立ピット底面〈2〉、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉、しゃ水シート若しくは吹付シート〈4〉、透水管〈5〉、小砂利骨材〈6〉、砕石〈7〉、貯留水送水管〈8〉、浸出液貯留槽〈9〉、原水ピット〈10〉、水中ポンプ〈11〉、浸出液処理設備〈13〉、土堰堤〈14〉

四 工法の説明

埋立地造成に際し廃棄物の流出を防止するための埋立ピット側面〈1〉、水勾配を有する埋立ピット底面〈2〉及び底面勾配下辺に沿って浸出液集水管下部の渠溝〈3〉を備え、土堰堤〈14〉で適宜大きさに区画した多角方形の埋立ピットを掘削し、埋立ピットの底部は合成ゴムのしゃ水シート〈4〉、側部は吹付ゴムシート〈4〉で、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉の内面は吹付ゴムシート〈4〉と保護砂でライニングして遮水工事を行い、浸出液集水管下部の渠溝〈3〉の中央部には、骨材〈6〉となる小砂利類の粒度を限定して特殊なセメントペーストによって結合し、連続性空隙を形成したコンクリートによるコンクリート透水管〈5〉を砕石〈7〉によって巻立てた浸出液集排水管を設置し、浸出液集排水管(コンクリート透水管〈5〉)から浸出液処理設備〈13〉に浸出液が流入する末端には「スクリーン」が設置され、浸出液はコンクリート透水管〈5〉が底部に開口する浸出液貯留槽〈9〉を有する原水ピット〈10〉に廃棄物の分解発生ガスとともに流入し、原水ピット〈10〉の上部は浸出液処理設備ブロア室の貯留水送水管〈8〉に連絡する。

コンクリート透水管〈5〉に集排水された廃棄物浸出液は、透水管〈5〉を巻立てた砕石〈7〉と透水管〈5〉を構成する骨材〈6〉に付着した微生物及び細菌による浄化作用により浄化されつつ浸出液貯留槽〈9〉に流入される。

浸出液貯留槽〈9〉には水中ポンプ〈11〉が設置され、貯留された浸出液を浸出液処理設備〈13〉に汲み上げ排水し、分解発生ガスは浸出液処理設備ブロア室の貯留水送水管〈8〉によって強制的に排気されるように構成した一般廃棄物の埋立処分地造成工法。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

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